院長コラム

COLUMN

再び「Best Doctors in Japan」

2022.08.05

 前年度(2020-2021)に次いで、今回も「The Best Doctors in Japan 2022-2023」に選出されました。この制度や選出方法については、前回お話しいたしましたので、そちらをお読み下さい。他の医師の推薦によって選出されるというこの制度にどれだけの価値があるのか分かりませんが、兎に角小生を推薦してくださった先生方には謹んで御礼申し上げたいと思います。
 医学生当時「名医たらずとも良医となれ」という教育を受けた事を憶えています。どの様な医師が名医なのか?どうしたら良医になれるのか?名医でなくても良医になれるのか?臨床経験の全く無い医学生がいくら考えても正解に辿り着くことは困難でした。
眼科医になりたての頃、眼科学の世界的権威であった恩師中島章教授から眼科手術に対する心構えとして「迷ったら止めろ」という教えをいただきました。この教えには、「手術というものは、人様の身体を傷つけるものだから、余程慎重にやらなければいけない。どんな小さな手術であっても本人にとっては大きな負担となるから、やらないで済むものならそれに越したことはない。何もしない事が最も正しい治療法になる事もあるのだ。」という意味が込められていたように思います。各々の患者様の立場に立った誠実な医療とは何か、を考える上で大きなヒントになるご教示だと感じました。
 日常生活上なんの不便も感じない患者様や矯正視力(1.0)の患者様に「合併症の無い安全な手術だから。」「歳をとれば必ず進行するから今のうちにやりましょう。」と言って白内障の手術を勧める手術の上手な名医はたくさんおります。一方、「あなたにとってその手術が本当に今必要なのか?落ち着いてもう一度考えてみましょう。」と問いかける眼科医は少なくなったように思います。
 眼科医としての45年間の経験の中で、多少とも他人様に認めてもらえることがあるとすれば、「どの様な眼科医療を患者様に提供する事がBest なのか? 誠実な眼科医療とはなにか?」を常に模索して来たことではないかと思っています。

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紫外線の眼障害

2022.06.08

 夏の気配が日に日に強くなり、紫外線の気になる季節となりました。そこで、今回は紫外線の眼に対する影響についてお話ししたいと思います。
 先ずは紫外線の定義です。可視光線(波長400nm~760nm)よりも波長の短い光(波長320∼100nm)を紫外線(UV)と呼びます。紫外線はさらに、人体や環境に対する影響から長波長(400~320nm)のUVA、中波長(320∼290nm)のUVB, 短波長(290~100nm)のUVCに分類されます。このうちUVAは皮膚の日焼け以外、生体に対する障害はほとんど無いと考えられています。
 太陽光には、上記の3種類の紫外線が含まれていますが、最も毒性の強いUVCは大気中のオゾン層によって完全に吸収されてしまうため、私たちの所まで到達する紫外線は、UVBとUVAのみです。
 雪山など紫外線の強い所では、UVBの多くを吸収する角膜上皮細胞が障害され「びまん性表層角膜炎」を起こします。所謂「雪目」と呼ばれるもので、異物感、眼痛を訴えます。また、結膜(白目)が角膜(黒目)に進入する「翼状片」という病気も慢性的な紫外線曝露が原因と考えられています。角膜を透過したUVBとUVAは、そのほとんどが水晶体で吸収され「白内障」の一因になると考えられますが、太陽光由来の紫外線が眼球奥の網膜にまで達することはほとんどありません。
 太陽光以外、殺菌灯や溶接の光など人工の紫外線には毒性の強いUVCが含まれています。保護メガネ無しで5∼10分以上曝露されると「びまん性角膜炎や急性結膜炎」を起こし、激しい眼痛、充血、目やに、流涙などを自覚します。時に、点眼薬による「アレルギー性角結膜炎」などと間違われることがあります。
 元々眼には紫外線をブロックする仕組みが備わっていますので、通常の太陽光由来の紫外線を過度に怖がる必要はありませんが、紫外線の非常に強い環境や人工紫外線に曝露される場合には、眼障害予防のためのサングラスや保護メガネが有用です。尚、コンタクトレンズは、その素材自体がほとんどの紫外線を遮断すると考えられていますが、更に紫外線吸収剤を含んだレンズも市販されています。
 紫外線は、ビタミンDを産生し骨の発育を促進したり免疫力を高めるなど身体に良い作用もあります。適度な太陽の光を浴びて、この夏を元気に乗り切りましょう。

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副院長からのメッセージ

2022.05.25

 院長が2002年9月に当院を開業してからおかげさまで20年が経とうとしています。
さて、21年目の当院では日帰り手術が施行できる環境を整えるべく計画を立てております。
 白内障手術や緑内障手術、眼瞼下垂や睫毛内反症などの外眼部(まぶた)疾患に対する手術、加齢黄斑変性や網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫などに対して硝子体注射、などの適応がある場合、従来では他院にご紹介して手術を受けていただいておりましたが、今後は当院でも上記の手術が可能となり、皆様の目の健康に一層お役に立てるものと確信しております。
 すでに、院内掲示や当院ホームページの『お知らせ』や『院長コラム』などで一部告知しておりますのでご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、手術室等の新設のため本年8月頃に院内改装工事を計画しております。
 例年頂いている夏季休暇を含めて約3週間ほどの工事期間を予定しております。その間、皆様には大変なご不便、ご迷惑をおかけいたしますが、何卒ご理解の程よろしくお願い申し上げます。定期的な治療や検査、点眼薬やコンタクトレンズの処方の必要な患者様は、あらかじめスタッフにご相談いただきますようお願いいたします。
 具体的な日程は決定次第改めてお知らせいたします。

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「眩しさ」について

2022.04.01

東京はじめ各地で桜の花が満開となり、いよいよ本格的な春の到来を感じる季節となりました。良く晴れた日に外出すると、太陽の光が思いのほか強く、「眩しさ」を感じるのもこの季節です。しかし、この「眩しさ」に何か他の症状、例えば、視力低下、眼痛、頭痛、充血、流涙、複視などが伴っていたら、これは単なる春の強い日差しのためだけではありません。眩しさを感じる目の病気には、実にいろいろな種類があります。先ず、瞳孔(ひとみ)が大きくなった為に眼内に入る光の量が多くなり眩しさを感じる病気があります。前回お話ししたアディー瞳孔もその一つです。また、怪我の後に起こる外傷性散瞳や動眼神経の損傷による散瞳などでも眩しさを自覚します。眼の中に入ってくる光が乱反射する為に眩しさを感じる病気もあります。ドライアイやコンタクトレンズ装用による角膜上皮障害、病原体の感染による角膜潰瘍や角膜浸潤、先天性角膜混濁(ジストロフィー)、眼内に炎症細胞が出てくるぶどう膜炎、水晶体が混濁する白内障などです。また、一部の先天性網膜疾患でも眩しさを自覚します。忘れてはならないのは、緑内障発作です。眼圧が急激に上昇するために角膜浮腫が起こり、瞳孔も散瞳するために視力低下とともに眩しさを感じます。また、眼痛、頭痛、吐き気を伴う場合もあります。放置すると、数日で失明することもあるので急いで眼圧を下げる必要があります。
全てのものが明るく輝いている春の光の中で、何かいつもと違う違和感を感じたら「要注意」です。

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Adie瞳孔について

2022.02.15

 最近経験した症例をご紹介します。30才の女性。「今朝より右眼のピントが合いにくくなった。まぶしくなった。」と言って来院されました。矯正視力は、(1.2)でしたが、右眼の瞳孔径が約6㎜と中等度に散瞳していました。光を当てて縮瞳の有無を調べる対光反射では殆ど反応せず縮瞳はしませんでした。一方、近見時の輻輳(寄り目)は可能で、その際瞳孔はゆっくり縮瞳しました。
 上記の患者様のように、片眼の対光反射が減弱又は消失し瞳孔径が大きくなり、左右眼で瞳孔不同となる所見は、緑内障発作時、外傷による瞳孔括約筋損傷、虹彩炎、動眼神経麻痺などで観察されます。この患者様は、緑内障や外傷の既往は無く、瞳孔不同以外の異常所見も観られません。また、動眼神経麻痺を疑う他の諸症状は無く、輻輳反応は正常でしたので、Adie瞳孔と診断しました。念のため、動眼神経麻痺を来たす内頸動脈の動脈瘤等の脳内病変の有無をMRI&Aで検索し、異常所見の無いことを確認しました。
 Adie瞳孔は、多くは原因不明ですが、瞳孔括約筋の麻痺により発症します。20~40才の女性に多く、80~90%が片眼性です。瞳孔が散大し対光反射が減弱しますので、眩しさ、ピントが合わない等の自覚症状を訴えます。一方、輻輳反応は正常に保たれます。瞳孔は時間とともに縮小し自然治癒しますので治療の必要はありません。眩しさが強い場合には、虹彩付きコンタクトレンズを処方します。このAdie瞳孔に膝蓋腱反射やアキレス腱反射の減弱消失が合併した症例はAdie症候群と呼ばれています。
 上記の患者様は、特に治療することも無く、約一週間で瞳孔径の左右差が無くなり眩しさは消失しました。

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