院長コラム

COLUMN

動体視力について

2024.03.30

 視力には、ランドルト環と呼ばれるC字形の指標を用いて測定する静止視力(一般的な視力)の他に、動いている物を識別する動体視力があります。更に動体視力は、左右に動く物を識別するDVA(Dynamic Visual Acuity)と前後方向に動く物を識別するKVA(Kinetic Visual Acuity)に分けられています。
 物を見るという事は、目に入ってきた光を網膜の視細胞が捉え、神経信号に変換し、視神経を通して脳の視覚野を刺激する事で成立します。静止視力は、眼内の角膜、水晶体、網膜などの機能に左右される一方、動体視力には、眼球を動かす筋肉やそれを支配する脳神経などの働きが強く関与していると言われていますが、詳細は不明です。
 40年程前、眼科医に成りたての頃、米国のスポーツビジョン研究会という眼鏡士の学会に出席し、初めて動体視力という言葉に接しました。何人かの眼鏡士が、有名な野球選手の動体視力を訓練し打撃成績を向上させたと発表していました。学会発表というより自慢話のようであまり学問的ではない気がしました。動体視力は、今日に至るまでスポーツビジョンと密接な関係を保っています。日本のプロ野球選手や球技のオリンピック選手が動体視力を良くする訓練を受けたという話をしばしば耳にします。動体視力は訓練によって良くすることができ、スポーツのパフォーマンスも向上すると考えられています。
 高齢者の運転免許更新時にも動体視力検査が行われています。遠方から一定のスピードで近づいて来る指標を識別するKVA動体視力を測定します。このKVAは、70才を超えると急激に低下するそうで、その事が高齢者の自動車事故の一因と推測されています。
 犬や猫の静止視力は、0.2~0.4とヒトの視力より悪いのに、動くものを見る能力すなわち動体視力は非常に良いと考えられています。静止視力が悪いのに、動体視力が優れているという事が有り得るのでしょうか?
 動体視力の測定法として、学問的に確立された方法は未だにありません。動体視力とは、動いている物を識別する視機能と定義できますが、本当に静止視力とは区別されるべき全く別の視機能なのでしょうか?何だか良く解らなくなってしまいました。

カテゴリー| 視力

タイゲソン点状表層角膜炎について

2023.12.23

 本日は、最近経験したタイゲソン点状表層角膜炎についてお話しします。比較的稀な疾患で、当クリニックには、1年間で2、3人程の新患の方が受診されます。
 通常、両眼性ですが、片眼のみの場合、左右で発症時期が異なる場合もあります。若年の女性に多いと言われていますが、男女あらゆる年齢層に発症します。最近当クリイックで診察した2名の患者様は、いずれも男性で20歳代、40歳代でした。自覚症状は、比較的強い異物感、眼痛、羞明感(まぶしさ)を訴えます。視力は重症例で経度低下します。所見としては、角膜全体に点状の混濁がぽつぽつとびまん性に観察されます。フルオレセインで染色すると、混濁の中央のみが染色されます。結膜は多くは正常ですが、うっすらと充血している場合もあります。
 原因は、何らかのウイルスに対する免疫反応ではないかと考えられていますが、詳細はいまだに分かっていません。
 治療はステロイド点眼で、多くの症例では1、2か月程で混濁は消失します。しかし、中にはステロイドの効果が乏しく遷延化し、角膜上皮下に混濁が残ることもあり、タリムスやパピロックミニといった免疫抑制剤の点眼薬を使う症例もあります。更に、異物感や痛みが強い場合には、ソフトコンタクトレンズを装用します。
 この病気の特徴の1つとして再発しやすい点が挙げられます。再発の頻度は、数か月から数年と様々です。初期の症例では、診断は比較的容易ですが、ヘルペス性角膜炎、アデノウィルス性結膜炎後の点状角膜炎等との鑑別が必要です。特に遷延化した症例では、角膜上皮下に混濁を来たし、上記のような他疾患との鑑別が難しい場合もあります。しかし、遷延化や再発があっても、その時期に応じた点眼薬を適切に選択投与することで、最終的には治癒する病気です。
 上記のような症状のある方、タイゲソン角膜炎と診断されたがなかなか治らない方、当クリニックを受診してみてください。
 今年もあと8日を残すのみとなりました。来たるべき年が、皆様にとって幸多き良い年となりますよう心よりお祈り申し上げます。

カテゴリー| 角膜

眼科関連サプリメント

2023.08.13

 サプリメントの国内市場は、年間1兆円を超えようとしており、眼科疾患をターゲットとしたサプリメントも多数市販されています。日本眼科医会発行の医学雑誌「日本の眼科」の7月号に「眼科とサプリメント」という特集記事(総論)が掲載されました。今回は、この記事の内容をまとめて皆様にお伝えしようと思います。
 この特集記事では、加齢黄斑変性、緑内障、ドライアイ、白内障に対するサプリメント又はその含有成分を取り上げています。
 アメリカにおける大規模スタディでは、加齢黄斑変性に対し、ビタミンCおよびE、ルテイン、ゼアキサンチン、亜鉛を含む複合サプリメントを摂取すると、本症発症率を5年間で約25%抑制すると報告されています。この複合サプリメントは、全てのサプリメントの中で最もエビデンスレベルの高いものに分類され、医薬品と同程度の科学的根拠が示されている数少ないサプリメントと言えます。
 緑内障の悪化要因として、高眼圧以外で、酸化ストレスによる網膜神経節細胞の損傷が考えられています。抗酸化物質であるイチヨウ葉、オメガ3・6、コエンザイムQ10、緑茶抽出物、アスタキサンチン、ビルベリー、ヘスペリジン、クロセチン等が動物実験や臨床試験で、酸化ストレスの軽減、神経節細胞死の抑制、軽度の眼圧下降等の効果を示したとの報告があります。ただ、いずれの報告も対象患者数が少なく、高いエビデンスが示されたとは言えません。更に症例数を増やして検討する必要があります。
 ドライアイの改善に、オメガ3脂肪酸、ラクトフェリン、乳酸菌などを含んだサプリメントが期待されています。オメガ3脂肪酸には、抗炎症作用による涙液の安定化やマイボーム腺機能不全の改善が期待されています。また、ラクトフェリンや乳酸菌は、涙液機能を維持すると考えられています。しかし、現時点では、これらのサプリメント成分のエビデンスは「弱い」と判断されています。
 加齢に伴う白内障の発症機序として、酸化ストレス、糖化ストレスがあります。従って、抗酸化物質、抗糖化物質に発症や進行の抑制効果が考えられますが、今の所、エビデンスが「高い」と言える物質はありません。
 サプリメントは、医薬品とは異なりきちっとした臨床治験が行われておらず、科学的根拠が示されているものはほとんどありません。また、有効成分の含有量が不十分なものもあり、その取捨選択に当たっては、掛かり付け医師と相談の上、自分に合ったものを上手に利用することをお勧めいたします。

カテゴリー| サプリメント

落屑緑内障について

2023.05.06

 当院で治療中の緑内障患者様のうち、手術適応のある中等度以上の患者様には、順天堂大学眼科緑内障外来の松田彰助教授との併診をお願いしています。先の日本眼科学会総会で、松田先生が演者として参加されていた「落屑緑内障」に関するシンポジウムを拝聴して来ました。そこで今回は、この落屑緑内障についてお話ししたいと思います。
 「落屑」とは聞きなれない言葉ですが、ふけの様な細かい白いゴミが眼内の水晶体や虹彩などに付着した病態を落屑症候群と呼びます。この落屑が隅角部に沈着して、眼内の水が外へ出にくくなり、眼圧が上がると落屑緑内障になります。通常は、片眼に発症しますが、加齢とともに両眼性になることもあります。眼圧の変動が激しく、時には緑内障発作のように40mmHg以上に上がることもあります。また、治療に対して眼圧のコントロールが悪く、進行が速い事も特徴です。治療は、通常の開放隅角緑内障と同様に、種々の点眼薬、レーザー治療さらには観血的手術が行われますが、予後の不良な症例が多いとされています。また、落屑物質は水晶体嚢やチン氏小体、虹彩、角膜内皮にも沈着するため、白内障や水晶体脱臼、散瞳不全、角膜内皮障害などが合併しやすくなります。
 今回の学会で松田先生は、手術法に関するお話をされていました。落屑緑内障、特に難治性症例、高齢者症例に対しては、チューブシャント挿入術が良いのではないか、とのお話でした。
 落屑緑内障と診断された患者様は、通常の緑内障患者様に比べ、より頻回に緑内障検査を行い、眼圧や視野の状態を十分に把握しておく必要があると思います。

カテゴリー| 緑内障

花粉症について

2023.02.01

 今年も花粉症の季節が近づいてきました。2年前に花粉によるアレルギー性結膜炎の発症機序についてお話しましたが、今回も花粉症を取り上げたいと思います。
 東京では、今年のスギ花粉は2月中旬から飛散しはじめ、3月下旬までにピークに達するとの予測です。ヒノキの花粉は、スギ花粉より少し遅れて4月上旬がピークです。
花粉によるアレルギー性結膜炎の症状は、充血、かゆみ、涙目、目やになどです。特に、かゆみが強いと、ついつい目をこすってしまいます。過度にこすりすぎると白目がむくんでブヨブヨになります(結膜浮腫)。症状の似た病気にアデノウィルス性結膜炎があります。ウィルス性結膜炎は周囲の人に感染しますので、この病気との鑑別は大変重要です。必ず眼科医の診断を受けてください。
 毎年花粉症に罹る方は、飛散開始約2週間前から抗アレルギー点眼薬を始めてください。前回もお話した「初期療法」です。かゆみなどの症状が軽減されると考えられています。最近では、一日2回のみの点眼で十分効果の得られる点眼薬も発売されていますので、試してみてください。
 近年、花粉量の少ないスギや全く花粉を出さないスギが品種改良で生み出されています。花粉症に悩まされている方には朗報です。しかし、現在あるスギの木が、花粉の少ない品種に置き換わるには、恐らく50年、100年と言った時間が必要でしょう。国内産木材の需要が高まり、伐採と植林が盛んに行われ林業全体がもっと発展していく必要があります。花粉症が無くなるのは、まだまだ先の話ですね。

カテゴリー| アレルギー性結膜炎